2015/02/03

保険金不払い 控訴棄却し損保会社に支払い命令

泣き寝入りしている経営者がいれば勇気づけたい―。松本産業(愛知県弥富市)の松本社長

は、自社で経験している自動車保険不払いトラブルを公表しようと考えた理由をこう語る。同

社は現在、損害保険会社「あいおいニッセイ同和損害保険(以下、あいおい損保)」を相手取り

訴訟を起こしており、一審で勝訴、そして18日に行われた控訴審判決で名古屋高裁は損保会

社の控訴を棄却した。「アリでもゾウに勝てることをぜひ知ってほしい」。松本社長は今回の損

保会社の理不尽な対応とその闘いを赤裸々に語ってくれた。

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 事件の発端は今から3年前の平成22年8月。同社が前年1月から5年間のリース契約で使用

ていたトラックがいつも駐車していた月極駐車場から突如として消えてしまった。7月29日まで

駐車場に止まっているのを乗務員が確認していたが、そこから先は不明だった。警察から松

長に「トラックが見つかった」と電話があったのは8月2日午前3時頃。発見された弥富市の

コンテナ置き場に急いで駆けつけたところ、キャビンが激しく焼損し消防隊によって鎮火されたば

かりの状態だった。車両はもはや全損だということは一目で分かった。 

 駐車していた付近は物騒だと警察からも聞いていたことから悪質な盗難事件だと思い、契約し

いた保険代理店にこの件について連絡、発見した際に撮影した写真を渡した。代理店からは

それをもとに損害額の調査を行うという説明を受けた。 ところが、待てど暮らせど連絡がない。

そこで10月に代理店に車両保険金の支払いを請求した。それでも「調査が長引いている」と言う

のみで一向に支払われない。やむを得ず11月に今度はあいおい損保に支払請求をした。

するとあいおい損保は「乗務員が故意に燃やした疑いがある」と、松本社長にとって驚くべき回

をしてきた。さらに、「その他にも看過できない事情が浮上した」と言われ、保険金の支払い

はできないと返答。しかし、具体的事実関係については一切教えられることはなかったという。 

 焼損したトラックの乗務員は10代の頃から松本産業で面倒を見ており信用できる人物だった。

しかも事故発生前日の8月1日と当日は本人のアリバイも証明されていた。同乗務員は歩合制

で働いており故意に火災を起こすメリットはない。また、リース車両であることから同社にとって

のメリットもない。その後、同社はあいおい損保から「故意ではないという証明をしてほしい」と求

められる。 「保険金を支払わないというのであれば、我々にやっていない証明をさせるのではな

く、やったという証拠をあいおい損保側が示すべきではないか」と、一連の対応に不信感を抱い

た松本社長は、意を決して巨大組織を相手に訴訟を起こした。裁判で相手が主張したのは先述

した「盗難の外形的事実の有無」のほかに「保険契約が他人のために保険契約を締結する場合

において、その旨を保険申込書に記載しなかったときには無効となる」というものだった。つまり、

車両のリース契約の借主および保険契約者はいずれも松本産業であるのに対し実体としては

両を購入・使用していたのは乗務員であり、この名義貸しの事実を申込時に申告していなかっ

ことで保険契約は無効だと主張したのだ。

 それら主張に対し、ことし5月に行われた一審判決は「実質的な保険契約者と名義上の保険契

約者が相違するというこに過ぎず、そのことによって本件保険契約が乗務員のためにする損害

険契約になると解釈することはできない。不告知が保険契約の無効をきたすという解釈を取る

ことは困難」とし、契約を有効認めた。また、盗難の外形的事実についても、「消極的事実の立

証は容易ではなく、このような事実の立証責任を課すのは相当とはいえない」として退け、松本

長の訴えがほぼ認められる内容となった。名古屋地裁はあいおい損保に対して車両の損害

1800万円、レッカー代18万9000円とこれらに対する1年余りの遅延損害金をを支払うよう命

じた。あいおい損保はその後、判決を不服として控訴したが、今月18日に行われた控訴審判決

でその訴えは棄却された。

 保険会社の不払いトラブルは少し前にマスコミなどに取り上げられ大きな問題となった。いかに

険金を支払わないかの能力が問われ、それによって出世が決まるともいう。また、あいおい損

保は事故当時、合併・統合したばかりで、ある保険専門家によると「合併直後に高額な保険金支

払いをすると担当者はリストラの対象にもなりかねないので、そうした環境も不払いに影響して

るのではないか」と推測している。

 「保険金が支払われなければ保険に加入している意味がない。声の小さい一契約者が大きな

よって泣き寝入りを強いられるという不条理がまかり通ってはいけない。 仲間であるトラッ

ク運送営者に今後こうした被害者を出さないためにも今回の事例を公表したい」とする松本

社長。今後は、あいおい損保側にリースの違約金約400万円についての損害賠償請求も行っ

ていく考えだという。 

 

2013.12.25