2015/01/16

「コンプライアンス時代」あるべき賃金体系を模索

 

 

未払い残業代など労働賃金を原因とする労使間トラブルが後を絶たない。そうした中、4年前にドライバーの完全時給制を実現させるなど斬新な発想による情報発信力はもはや全国区ともいえる中田商事(三重県伊賀市)の中田純一社長とポイント制の賃金と仕組みによってドライバーのモチベーションを高めることに成功したナルキュウ(愛知県名古屋市)の酒井誠社長が賃金制度導入に至った経緯と展開について対談した。 ※敬称略

酒井 私の場合、給料で苦労してきました。昔は残業手当もきっちり払って歩合も運賃の何パーセントという昔ながらのやり方をしていたのですが、それで時間外手当の計算をするとすごい金額になってしまい経営的に厳しくなった。長距離で運賃の20%、300キロ以下を中距離以下として25%プラスとすると時給2000円台になってしまう。ドライバーによっては3時間で着くところを夜中に出発したりする。働いた分だけ給料がもらえるということがあると難しい部分があった。少しでも余分に時間を働いたほうがたくさん給料がもらえるという意識を変えたいと思い給与形態の改革に乗り出しました。
 

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  中田 当社はもともと完全歩合制でした。スキルの低いドライバーには時間が短くて運賃が高い仕事を与えていた。つま   り誰でもできる楽な仕事ですね。逆にスキルの高い人は何でもできることから分の悪い仕事にはめ込まざるを得ない。     その不平等を何とか解消したいと思い、第一段階として評価で歩合のパーセンテージを変えるようにしたが、評価の方   法に管理者が追いついていけず賄いきれなかった。それで今から約4年前の改正労働基準法のタイミングで完全時間   給に移行しました。もちろん時間給も評価によって時間単価を決めるようにした。

 

 

  酒井 ドライバーから反発はありませんでしたか?
 

  中田 もちろんありました。歩合給で育ってきたドライバーはまったく理解を   しようとしない。そういうドライバーが去っていきました。また、新しいドライ    バーが来ても理解しにくいみたいですね。本来は簡単なんですよ。1時間あ  たりいくらで残業代は1・25かけて深夜は1・35をかける。そんな簡単なル  ールを理解しにくい業界なんだと実感しましたね。これは時間がかかるが  やるしかないなと思いました。どちらかといえば労働紛争で不必要な心労と  お金を払いたくないという気持ちが強くありました。
 

  酒井 私が給与体系を「ポイント制」に移行するきっかけとなったのは12年   ほど前のことです。いま中田社長がおっしゃったことはすごくよく分かります。新規の仕事を獲得するにはスキルの高いドライバーを入れたい。しかし、新規だけに運賃も安い。ここは矛盾ですね。ある時ちょっとした事件があったんです。あるお客様が燃料サーチャージを認めてくれたんですが、もちろんサーチャージですからそれを歩合に反映させなかったんです。そうするとドライバーが血相を変えて私のところに来て言うんです。「運賃が上がっているのになぜ賃金が上がらないんだ」。理由を説明しても納得しない。そこから不信感が生まれてドライバーが結託して、請求書を見せるように要求してきました。こちらはまったく非はないから見せたんです。そんなときモラルのないドライバーが荷主に「俺の給料が上がらないのはオタクの運賃が安いからだ」という暴言を吐いちゃったんです。それでそのお客さんから仕事を切られてしまいました。これでもう歩合は限界だと痛感しました。
 

中田 公平と平等を勘違いしてしまうんですね。運賃もドライバーに開示義務があって当然と思ってしまう。それをお客様に言ってしまうというのはいけないですよね。歩合は欲しいが故にどんどん歪んだ方向に行ってしまう可能性がありますね。それでどのように変えたんですか?
 

IMG_2804.JPG酒井 たまたまそのときにJALのカードを持っていて、その仕組みがすごく面白いと思っていた。沖縄や北海道など飛べば飛ぶほどマイルがついてくる。これを給料に使えないかと思ったのがきっかけです。同じことをしても質が高く仕事の量をこなすドライバーには余分に給料を払うようなポイント制に使えると思ったんです。
 

中田 ドライバーから抵抗はありましたか?
 

酒井 実施1年前にポイント制にするという宣言をしたんです。1年間、2つの給与体系を計算し明細を見比べてもらいました。そこで給料が上がる人と下がる人が出てくる。そこから先は対話ですね。低くなる人にはどうすれば上がるかを懇切丁寧にアドバイスしました。ポイント制が会社にとってコストダウンになれば信頼を失うのでコストアップは覚悟の上でしたが仕事の量と質が上がればいいと思いました。
 

中田 私もコストアップは覚悟しましたね。歩合制と比べて総コストが105%以内の設定でシミュレーションしました。しかしスタート後3か月は110%を超えました。管理者に意識が出てきて抑えるべきは抑えて半年後には逆に下がりました。今では人件費率が歩合時代の35%に比べて32・5%にまで下がっています。コンプライアンスの問題もきれいにクリアできています。
 

酒井 ドライバーのモチベーションはいかがですか?
 

中田 過去の反省としては短期のモチベーションを上げることに必死になっていました。でも短気は結局短期なんですね。酒井社長のすばらしいところは長期のモチベーションを維持できる環境を構築されていてとても勉強になる。同じことができるかは分からないが長期のモチベーションの維持方法が課題ですね。
 

酒井 モチベーションの根本は安心して自分の力を発揮できるかどうかで不信感を取り除くことにまず取り組みました。今月はよく働いたという感覚を持ったドライバーが給与明細を見て予想より低いとカチンとくる。そういう思い込みをなくす意味でもポイント制は有効です。ポイントを積み重ねることでドライバーでも日々の賃金計算が簡単にできますから。また、当社ではドライバーコンテストに出場するだけでポイントに乗じる係数が上がる仕組みを導入しています。他にも運行管理者試験を受けても上がります。ゲーム感覚で給与アップできる。それがモチベーションになっているかもしれません。
 

中田 当社もS~Dまで7段階の評価に分かれている。4月までは5段階だったんですが、それだとギリギリで目標にいかないことがよくあってそれがモチベーションを下げる要因にもなっていました。刻みを多くすることでほぼ皆1ランク上がり給料も上がりました。
 

酒井 手法は違いますが考え方は同じですね。
 

中田 その通りですね。結局、ドライバーの評価が上がれば必ずお客様からの評価が上がり求められる存在となる。それが収益をよくしていく。その仕組みづくりなのではないでしょうか。いま求められているのは運送業に主体的に労働環境をつくる意識だと思います。お客様と対等な立場ならコンプライアンスを主張できるはずです。
 

酒井 評価ができるのはすごいと思います。当社は評価はしないでポイント給と最低賃金と照らし合わせて足りないときは足す。多いときはそのまま渡すという考え方です。
 

中田 それも面白いと思います。またお互いノウハウを出し合っていい仕組みづくりをしていけたらいいですね

 

2014.7.23


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