運送会社専門のコンサルタントとして活躍する「あいち経営コンサルタント」の和田康宏氏。コンサルタント実績は300社を超え、多くの社長・ドライバー・管理職と接してきたその実績はどんなコンサルタントよりも中身が濃いと評判だ
本誌前号で掲載された「過労運転下命の有罪判決」。
「過労状態」であったことは、どのようなことを指すのか。
「運送会社がドライバーに対して過労運転を命令した」とはどのようなことを指すのか。
この2点の裁判所の判断が、今後の労働時間対策を考える上で非常に参考になります。
まずは「過労状態」とはどのように判断されたのか。
主に4つの切り口で過労状態を認定しました。
1.「改善基準」(正式には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」)。
2.産業医の見解(ドライバーの睡眠、休憩の質について)。
3.ドライバーの運転状況。
4.ドライバーが「居眠り運転」により重大事故を起こしていること。
以上の4つの視点で総合的に判断されました。中でも、1つ目の「改善基準」については
改善基準からの“逸脱の程度”は、過労状態に当たるか判断する上で“重要な資料”となり得る、
としています。
やはり改善基準を“どれだけ逸脱して違反しているか”を重視していることが分かります。
判決でも、
・1ヶ月293時間以内を大幅に超過していること。
・運転時間が1日9時間以内を大きく超過していること。
・仕業間(業務終了から次の業務開始までの時間)が8時間未満のために休息期間が存在しないこと。
・休憩時間が1日あたり5時間から7時間程度で、しかも細切れになっていること。
これら改善基準を大幅に超過する過酷な労働条件で行われ、疲労が蓄積して「過労状態」に
あったと判断されました。
2つ目の産業医の見解では、ドライバーの仮眠スペースがトラックのキャビン(長さ220㎝、幅60㎝)では
疲労を回復し得るような仮眠や休息が得られず、睡眠・休息の質が低かったことも、過労状態になった
1つの判断材料とされました。
3つ目のドライバーの運転状況についてです。
重大事故の1ヶ月以内に、居眠り運転でガードレールにぶつかりそうになったり、車線からはみ出して
運転したりする行為を起こしている点、少し運転しただけで疲れを覚え、肩や背中が痛みだし、休み明けも
疲れが残っていたとドライバーが述べている点により、過労状態にあったことを裏付けるものとされました。
4つ目の“居眠り運転”による重大事故を起こしたという事実も過労状態にあったことを裏付ける、
とされました。
大雑把に言えば、
- 改善基準を大きく逸脱した状態で、
- 居眠り運転になり、
- 重大事故を起こすと
「過労運転を命令した」ことになる、といえます。
一方「運送会社がドライバーに対して過労運転を命令した」とはどのようなことを指すのか。
この点について、「運行管理者は、運行管理規定で乗務記録やタコグラフを検討し、運転者に対して
必要な指導、監督を行うこととされている」と規定されており、運転時間や休憩時間等を確認しなかった、
ということは不自然である、と断定されています。
要するに所長や運行管理者、配車係が「過労状態」を知らないわけがない、ということです。
結局、改善基準を大幅に逸脱している状態であれば、あとは重大事故が引き金となって「過労運転の下命」
になる可能性が高い、と解釈できます。
過労運転の命令は、7日間の営業停止になります。
改善基準の違反を減らす取組み。
この取組みが運送会社の安全対策上、いかに重要であるかを改めて思い知らされる判決となりました。
2014.4.9